最初で最後の決定戦(硬式野球部)

最初で最後の決定戦(硬式野球部)

 県大会の地区予選での決定戦に総社南高校が出場した。

 相手は古豪、県立倉敷工業高校。2回に四番の井川君のホームランが飛び出して先行したが、その後は相手ピッチャーの好投になかなかチャンスが作れない。それに対して、相手は下位も上位もない強打線で、安打や四球で毎回チャンスを作る。毎回のように三塁を踏ませながらも、全員でホームだけは守り通した。試合前の投球練習で中継ぎ予定(新参者の勝手な予想)の選手が負傷をしたせいかもわからない。自分に逃げ場はないと悟った1年三宅君の必死の投球を周りが支えた。

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(試合前の風景です。試合中はカメラも携帯電話も使えません)

 しかし、勝利が見え始めた八回に四球で出たランナーにホームを踏まれた。「勝利が見え始めた」と書いたが、ベンチにそんな慢心はなかったはずである。ベンチもナインも常にチャレンジャーであり、攻めの姿勢が感じられた。同点になってもそれは変わらなかった。それでも、八回からリリーフしたエースが、九回に四球で出したランナーにホームを踏まれて、新参者にとって初めての決定戦は終わった。そのときになってやっと、負けることもあるということ、相手は我々よりも必死だったかもしれないことを意識した。

 選手たちは泣いていた。今年を最後にユニフォームを脱ぐ監督にとって、最後の甲子園の機会であったからだ。選手たちはお互いに中国大会出場を誓い合い、もう一度、監督に甲子園に立ってもらいたいと語り合っていたことを新参者は聞いていた。馬鹿げたことに、一番無知な新参者がもっとも信じていたのだろう。試合後のミーティングで監督に話を勧められても、何も言うことができなかった。何も準備してないし、何度スコアを見ても、この試合をどう評価して良いかわからなかったからだ。

  最初に勧められた私が「別に」と言い、副部長が小さく手を振ると、監督はちょっと息をのみ、「明日の練習は8時半から。早く帰れよ」とだけ言ってミーティングは終わった。

  ここから更に新参者の無知がさく裂する。こんなことは一度もしたことがないのに、こんな時に限って。どうしてもわからなかいことがあるんですと監督を呼び止め、「先生、どうしてこんなに打てなかったんでしょう。」と質問した。監督は苦笑して「それは・・、力が足りなかったからでしょう」とだけ答えてくれた。「でも、納得できないんですよね。12三振ですよ。速球があると言っても当たらない速さではないように思うし、変化球もそんなに球種が・・・・」後は新参者が何を言っても一言も答えてもらえなかった。

  次の日、スコアを改めてみて思い出し、相手投手がわかった。抜群の制球。変化球を活かす十分な速球。わかってないのはベンチにぼんやりと座っている新参者だけで、選手も監督も、一枚も二枚も上手の投手とチームに知恵と気迫で何とかしようとしていたのだ。総社南高校野球部の素晴らしさがわかればわかるほど、自分の無知が恥ずかしく、随分と報告が遅れてしまった。